【コラム】分断する世界におけるASEAN経済の多角化戦略
2025.10.15 インドネシア ベトナム フィリピン
ASEAN諸国の多くは全方位外交を基本的な戦略とし、欧米を中心とした西側諸国およびロシアや中国といった権威主義国家と呼ばれる国々のどちらにも偏りすぎない姿勢を取ることが多い。それが経済的な実利に直結するからだ。その一方で、貿易や投資など米国と中国に大きく依存する構造にあり、経済全体への影響も大きいため、二者択一を迫られることは是が非でも避けたいところだろう。
かかる中、ASEAN諸国は米中に依存しない貿易構造や外交関係の構築も少しずつ進めている。もちろん米中への依存度は非常に高く、完全な脱米中は不可能である。しかしながら、各国は米中以外の国々との関係強化に今まで以上に努めている。特に、昨今、「グローバルサウス」に代表されるように、第3極の国・地域のプレゼンスが高まっており、各国は経済や外交関係の多角化・相対化の一環として「グローバルサウス」間での貿易や投資を促進しようとする動きが増えている。例えば2023年10月20日には初めての湾岸諸国会議(GCC)とASEANとの首脳会議がサウジアラビアの首都リヤドで開催され、地域間のパートナーシップを発展させる動きがより強まった。またアラブ首長国連邦(UAE)はインドネシア、ベトナム、マレーシアとの包括的経済連携協定を締結しており、ASEAN諸国と中東諸国の経済関係強化は加速している。さらに南米との関係強化も進んでおり、ベトナムは2024年にブラジルとの外交関係を戦略的パートナーシップに格上げした。インドネシアもペルーと2025年8月に包括的経済連携協定を締結しており、フィリピンもチリとの包括的経済連携協定交渉を進めている。また南シナ海問題においても、フィリピンはこれまで関与が少なかった欧州諸国やインドとの関係構築も強めている。2025年8月にはフィリピンとインドが初の合同海軍演習を実施しており、連携を深めた。
ASEANは引き続き世界情勢や米国の政治経済動向の影響を強く受けるだろう。その中で、各国が安定的な経済成長を維持すべく、サプライチェーン強靭化や安全保障の観点からも、貿易・投資など経済の多角化、および外交関係の相対化の重要性が高まっている。その観点では、日本がASEAN地域で果たす役割は増していると言える。シンガポールのシンクタンクであるISEAS Yusof Ishak研究所が今年4月に発表した「The State of Southeast Asia: 2025 Survey Report」では東南アジア諸国の「主要国・地域に対する信頼度・不信度」が掲載されており、信頼できると回答した割合は7年連続で日本が最も高く、さらに2025年は前年よりも高まった結果となった。日本政府ならびに日本企業は米中対立の動静に関わらずASEANとの連携強化をより一層進めてほしい。
(出所:ISEAS Yusof Ishak Institute「The State of Southeast Asia: 2025 Survey Report」より筆者作成)
以上
株式会社双日総合研究所
情報調査室調査グループ
阿部智史