【コラム】米国・トランプ関税のベトナムへの影響は?

2025.06.17

 5年間のベトナム駐在時、ちょうど第1次トランプ政権と重なった。感覚的な話になるが、当時、筆者の周りではトランプ氏を支持するベトナムの方々が多かった。もちろん筆者が接点を持たせていただいたベトナムの方々は親日家が多く、ひいては西側諸国の価値観に触れることが多かったのだろう。しかし根底にあったのは中国へのネガティブな感情であったのかもしれない。その影響もあってか、当時の米国の対中強硬策はベトナムの方々にも大きなインパクトがあっただろう。
 時は経ち、2025年に再びトランプ氏が政権に返り咲いた。拡大の一途を辿っていたベトナムの対米貿易黒字について、中国の二の舞いになるのではないかと警鐘を鳴らす識者は多かったが、それが現実のものとなった。4月2日、トランプ大統領は「相互関税」に関する大統領令を発表し、世界中の国々に対し、追加関税を課すことを決めた。すべての国から輸入されるすべての品目に10%の関税を課すことを決め、さらに米国にとって貿易赤字が大きい国などに対しては個別に追加関税が設けられた。具体的には、累計で韓国25%、日本24%などであり、ASEAN諸国ではベトナム46%、タイ36%、インドネシア32%など高い関税率となった。その一方でフィリピンは17%と比較的低い関税率に留まった。これを受け、フィリピンの政財界からは中国等からの生産移管の観点から好機とみる声も出ている。
 反対に外需、特に米国向け輸出が経済を支えるベトナムは危機感を募らせる。仮に追加関税が発動する場合、ベトナムの対米輸出にはどのような影響が出るか。ベトナム税関総局によると、2024年の米国への輸出総額は約1,195億USDであった。品目別では、電子機器・同部品が最も多く、232億USDであり、次いで機械・設備、縫製品、電話機・同部品、木材・木製品、履物と続く。これらの品目はここ数年、常に上位に入っているため、追加関税措置を受けた場合、影響は避けられないだろう。

ベトナムの対米輸出品目(単位:億USD)

出所:ベトナム統計総局より双日総合研究所が作成

 追加関税は国によって関税率が異なることから、実際の影響は、今後の各国と米国の交渉次第によるところが大きい。そのため、貿易赤字以外の経済関係や広く外交関係も関わってくる可能性もある。また何よりも重要になってくるのが米国と中国との交渉だ。今後の交渉の結果、中国やその他の国に課される相互関税がどの程度になるかによって「貿易転換効果」が大きく変わるため、引き続き動向を注視する必要がある。

以上

株式会社双日総合研究所
情報調査室調査グループ
阿部智史

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