【コラム】「異常気象」から「前提条件」へ変わる東南アジアの猛暑

2026.08.14 タイ フィリピン インドネシア ベトナム

近年、世界各地で猛暑の深刻化が顕著となっている。2026年も各国で記録的な高温が観測されており、その影響は広域かつ深刻なものとなっている。東南アジアも例外ではない。また、2026年はエルニーニョ現象の影響により東南アジアの高温・少雨リスクが高まる可能性が指摘されている。東南アジア各国の猛暑は広域的に発生し、毎年、3月以降は猛暑関連のニュースを目にする。こうした状況を踏まえると、近年の猛暑は単発的な異常気象としてではなく、毎年のように発生し得る現象として捉える必要性が高まっている。そして、重要なのは、このような変化が単なる気候条件の変化にとどまらず、社会システムそのものに制約を与える構造的要因となりつつある点である。例えば、建設業や物流業など屋外労働への依存度が高い分野では、高温環境下での作業制限や労働時間の調整が求められ、経済活動そのものに制約が生じている。また、都市部では高温によるインフラへの負荷から、道路や鉄道設備の機能低下が生じ、交通網に影響を及ぼす可能性もある。さらに、気温の上昇は熱中症の増加などを通じて医療需要を押し上げ、医療機関・インフラへの負荷の増大を招く。加えて、降雨の減少や高温の影響により水資源への負荷も高まっており、都市部や農業地域において水供給の不安定化も懸念されている。これらの事象は、猛暑が単なる「気象問題」ではなく、労働、交通、医療、水資源、電力といった社会基盤に恒常的な制約をもたらす存在へと変化していることを示している。

これらを踏まえると、猛暑に対するリスク管理のあり方も転換する必要がある。従来は、猛暑を突発的な災害とみなし、発生後に対応する「事後対応型」の管理が中心であった。しかし、猛暑が毎年発生し得る前提となる中では、平常時からその影響を織り込んだ「事前対応型」の管理へと移行することが不可欠である。各国は電力需給のピーク管理、水資源の効率的利用、都市環境の改善、労働環境の調整など、多くの分野での対策を進める必要がある。企業にとっても、東南アジアにおける猛暑は「異常気象」ではなく、毎年発生し得る「前提条件」として捉える必要があり、猛暑の常態化を前提とした事業展開や制度設計、そしてリスク管理の高度化を進めていくことが求められる。

その一方で近年は、こうした気候リスクを単独で捉えることが難しくなっている。背景には、地政学リスクの高まりがある。東南アジアでは冷房需要の増加などを背景にエネルギー需要が拡大している一方、多くの国が原油やLNGなど輸入燃料に依存している。このため、猛暑が電力需要を押し上げる局面では、国際エネルギー市場の動向がこれまで以上に重要となる。とりわけ今年は、中東情勢の悪化を受けて国際エネルギー市場の先行き不透明感が高まった年でもあった。猛暑による需要増加とエネルギー供給を巡る不確実性が同時に進行する中、企業は従来以上に気候と地政学の双方を意識した事業環境への対応を求められている。今後は、気候変動による需要増加と地政学リスクに起因する国際エネルギー市場を巡る不確実性が重なり合う「複合リスク」への対応力が、企業の競争力や事業継続性を左右する要因となるだろう。

株式会社双日総合研究所
情報調査部
阿部智史

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